自作電子楽器

自作電子楽器



今回は、高エネルギーから遠ざかり、普通の電子工作をしようと思います(笑)
まあ、こういう身近に感じられるものも、それなりに面白いと思いますので……

 

音について

そもそも音と言うのは、言うまでもなく、空気やら水やらの振動によってできています。この振動は、海の波のような山と谷が連続したものではなく、空気が密集しているところと、閑散しているところの組み合わせです。わかりやすく言えば、スプリングを部分的に縮めると、他が広がるような感じです。
またその周波数により、人間の耳には聞こえる音の高さが変わってきます。周波数が高いと音は高くなり、低いと低くなります。まあ、ご存じとは思いますが。
人間の耳に聞こえる音は、だいたい20Hz〜20kHzくらいです。お年寄りの方や、普段から大音量で音を聞いている人は、可聴域の最高が低くなります。DQN撃退用のモスキート音も「若者(まともな音量で音楽を聴いてる人)だけが聞こえる」周波数に調整されています。そう言う意味では、DQNに効果があるとは考えられないのですが(笑)

で、話を楽器の方に戻しますと、世間の楽器は上記のような周波数の振動を起こすことで、空気を震わせ、音を出します。
今回製作する楽器は、弦をはじいたり、鉄片やら木片をたたくことなく、電子的に音を発生させます。

今回製作する楽器

では、今回どのように音を出すのかと言うと、モータを使用します。別に、モータの回転数を利用するのではなく、モータより発生する「磁励音」を利用します。
磁励音と言うのは、周期的に電流をコイルなどに流すと、その磁場でわずかに鉄心などが縮み、それが周囲の空気を震わせて出る音です。一般的には騒音に分類されます(笑)
磁励音の代表は、比較的新しい電車発車時のあのいかにもマシン的な音です。

電車は、古いものは抵抗制御といい、直流モータと抵抗をつなぎ換えて速度を制御するという物ですが、新しい電車にはVVVF(スリーブイエフとか)制御という方式が使われています。
VVVFと言うのは、直流から半導体とコンピュータを用いて、擬似交流を作る方式です。「Variable Voltage Variable Frequency」の略で、要は可変電圧可変周波数という事です。文字通り、擬似交流の周波数と電圧を変え、三相交流用モータの速度を制御します。
で、発車時に聞こえるマシン的な音は、このVVVFの周波数の磁励音なのです。音が盛大に聞こえるのは、作動周波数の低いゲートターンオフサイリスタ(GTO)、ほとんど聞こえないのは作動周波数の高いIGBTが使用されている系列の車両です。

かなり脱線しまくったような気がしますが、多分説明に必要なことです、多分。で、この楽器を作るきっかけになったのは、ドレミファインバータという物を知ったからです。
ドレミファインバータと言うのは、ドイツのジーメンス社が開発したGTOインバータの通称で、京急とか常磐線とかの電車についてます。これは、騒音である磁励音をあえて音階状にして、不快感を和らげた物です。ちなみに、実際の音はファソラシだそうです。
京急1000形電車 (2代) JR東日本E501系電車
今回は、この磁励音っぽく音を鳴らしたいので、適当な周波数の矩形波(くけいは)をICで作り出し、モータに突っ込んでその周波数の音を鳴らそうという寸法です。
ちなみにどうでもいいですが、京急と東急は「ナントカ形」、その他は「ナントカ系」だったりします。

使用する物

・CMOSデジタルIC、74HC14
・nチャンネルMOSFET、2SK2232
・トランジスタ、2SC1815
・半固定抵抗各種
・抵抗各種
・セラミックコンデンサ1μF

まず今回は、矩形波生成用ののICに74HC14を使用します。また、このICでモータを動かすのは微妙ですので、スイッチング用のMOSFET、2SK2232も用意します。
MOSFETと言うのは、電界効果トランジスタの一種で、最近はいろいろな機械に導入されたりしています。主に、低電圧、高周波数でのスイッチングで使用されます。SSTCなどでも使われます。
一般のトランジスタと違うのは、トランジスタはベースに電流を流して駆動する素子なのに対し、MOSFETはゲートに電圧をかけて駆動する素子です。しかし、完全に電流が流れなくてもいいわけではなく、いくらかの電流は必要です。
話が横にそれますが、IGBTは、バイポーラトランジスタとMOSFETの組み合わせで出来ています。

次に、回路図です。

この回路で、左側の抵抗の集団とコンデンサは、周波数を決定する部分です。スイッチは、任意の周波数の矩形波を発生させる抵抗を選ぶのに使います。要は鍵盤の部分です。
使っていないピン(5,7,9,11,13)は、GNDにつないでおいた方が無難です。宙ぶらりんだと壊れる可能性があります。
発生させる周波数は、

f=1/T=1/(CR)

で計算できます。今回、コンデンサは1μFで一定です。仮に60Hzの低い音を発生させる場合、60=1/0.016666...なので、R=16666.667Ωとなります。
今回は電源電圧は6Vで、それほど電流を必要としないので、乾電池で駆動できる無駄に省エネ使用です。

また、周波数は、半音数3〜18までの音、要するにドレミファソラシドレを発生させます。大体、261.626〜622.254Hzで、ピアノの低い方の音です。
音階と周波数の関係は、計算などいろいろ書いていると記事が終わりませんので、調べていただけるとありがたいです。

製作

今回の楽器は、鍵盤を使用した物にする予定なので、鍵盤を製作しました。

完成したのは上の物なのですが、どう見てもやっつけ仕事すぎます(笑)
ご覧のとおり、鍵の一つ一つが電極になっています。ここに、もう一つの電極をつなぐと、矩形波がでるわけです。

また、ICが乗る方の基板はこんな感じです。

抵抗の接続方法が、かなり効率的ではありませんが、見た目ではこちらの方がいいので、あえてこうしました。またこの基板には、他にMOSFETも乗ります。


見てわかるとおり、先ほどの基盤は小さかったので、チューニング用の半固定抵抗は、他の基板に接続されています。

こんな感じです。

さて、製作したのはいいのですが、モータから音が出ません(笑)
どうやら、デューティー比を変更できないと音が出ないようです……仕方ありませんので、デューティー比を変更できる仕様の物を製作することにしました……

改良

そういうわけでして、デューティー比を変更するために、555などのICを使用したPWMの回路を探して参考にしようとしたのですが……
回路などを探していただければわかるのですが、デューティー比を変更する可変抵抗を操作すると、周波数までも変わってしまう事がわかると思います。特に、使用している74HC14の回路では、特にわかりやすいと思います。
そのため「迷走の果て・Tiny Objects」様の回路を参考にして、デューティー比と周波数を個別に変更できる回路を考えました。本当に助かりました。ありがとうございます。
具体的には、LM358と、74HC14を使用し、LM358側でデューティー比を、74HC14側で周波数を変更する回路です。LM358で代用するのが効率的かはわかりませんが。回路は、次のようになります、

いままでの回路と異なり、今回の回路では74HC14の8ピンをトランジスタのベースにつなぎます。4ピンでは、デューティーの調整ができないようです。また、使用していない回路は、前回と同様にGNDに接続しておきます。
どちらも6Vで動作するので、共通の電源を使用できます。

さて、そのようにしてできた回路ですが、このようになりました。

前回は見た目で考えて抵抗を配置しましたが、今回はできるだけ使用抵抗数を減らすために、それぞれの音階で共通して使う抵抗を配置してあります。そのため、前回もそうですが、今回も和音を出すことができない仕様になっています……
ちなみに、こんな感じの抵抗配置です。

このように、1kΩごとと100Ωごとに場所を選んで接続できるわけです。100Ω抵抗が4連なのは、470Ωの調整用可変抵抗があるからです。
まあ、特に図に起こす必要があるようなものでもないのですが(笑)
また、1オクターブ分しかないのは楽器として不便ですので、基板改良ついでに2オクターブ分(ドレミファソラシドレミファソラシドと、それぞれの半音)にしました。

このようにして基板を改良したのですが、デューティー比を調整してモータを接続すると、見事音が鳴りました。
ですが、ブラシレスモータもブラシモータも磁励音が小さく、周波数が高くなると、モータの回転音にかき消されてしまいました。またブラシモータの場合、構造上モータ内部のコイルに電流が流れている時間と、わずかな時間ですが、電流が流れず惰性で動いている時間があります。そのため、適切な周波数でないと、惰性時の周期とモータの周波数、デューティーが合わずに、音が不安定になったりします。
そのため、モータでの演奏はあきらめることにしました。また、大きなモータなどがあれば、チャレンジしたいと思います。
磁励音というのは、「コイルと鉄心があれば」発生させることができますので、代わりにいろいろつないでみたところ、意外にもリレーが良好な結果を出しました。ですが、ケースを固定すると音が小さくなり、やはり不向きでした。

しばらくして、リレーが大きな音を出すのは、中の鉄片が振動することで大きな音を出すと考えたので、とりあえず、電磁石とピンセットをつなぐことにしました。

電磁石につながれている抵抗は、電流制限用のものです。当初は、電磁石に直接つないでいましたが、余りにも熱くなるので、10Ωの物を接続しました。
とりあえずこの形をベースとして、ピンセット型の発振用金属端子を作ることにします。

ちなみに、演奏するとこのような音が出ます。動画では、ピンセットで電極を触れています。


また、そろそろ電池を出すのが面倒になってきたので、ACアダプタを使用することにし、抵抗も10Ωを並列にして5Ωとしたので、冷却ファンも追加しました。

ファンは本来12V用の物でしたが、6Vでも動いてくれるようです。これは相当な冷却効果があるようで、3分間の演奏で熱くなっていたコイルと抵抗は、同じ時間でも問題ない温度でした。
電流消費量もわずかで、ACアダプタの容量も問題ないです。

楽器本体の製作

前回の楽器では、あまり見た目がよくありませんので、今回はちゃんとした楽器風に作ってみたいと思います。
とりあえず、それっぽい感じであればいいので、適当に作ります。

まず大まかな形として、合板を土台として、その上に基板や鍵盤を配置する感じにします。そのため、合板を切り出し、面取りを行います。

デザイン性や機能性などほぼ皆無なわけですが、まあ、いいとします。色は、派手な色もあれですので、近くにあった黒のスプレーを使用して塗装しました。

とりあえず、一片を切って、それらしくしました。角度も寸法もすさまじく適当です(笑)

基板を搭載するスペースとして、合板とアクリル板でスペースを作ることにします。アクリル板は、合板の色と合わせて半透明の黒にしました。
また、予算の都合で微妙に小さいので、それに合わせて合板を切断し、アクリル板もちょっと加工してこのようにしました。

アクリル板の上には、鍵盤用のアルミ板を設置します。今回はちゃんと0.3mmの物を使用し、見た目的にもいいようにします。

切断は普通に鋏を使用して行いました。まあ、本当はあまりよくないのですが、それしかいい切断方法がありませんでしたので……

ちなみに、楽器は稼働時と非稼働時の判断ができにくいので、パイロット用のLEDを取り付けました。

本当は、青色LEDがよかったのですが、緑でもなかなかいい色になります。
そのような改造もして、基板は完成しました。微調整用の半固定抵抗は、別に基板にしてあります。また、合板の上に配置してみると、こんな感じです。

実は、これがまた大変な基板だったりします……他にも、コイルが入らないので、微妙に合板を削りました。


鍵盤ですが、まずは主音の鍵盤を配置します。

このようになりました。これでは、半音の鍵盤を設置できないので、この上に塩ビ板をのせ、その上に半音の鍵盤を設置します。
また、今までの写真を見てわかるとおり、まだ側面はふさいでいないので、側面をふさぎます。長い辺は、アルミアングルを使用して、短い辺は残ったアクリル板を使用します。

実装

基板などの大まかな設置部分を決めて、設置いたしました。楽器の内部は、このようになっています。
電磁石、抵抗、ファンの周辺です。

ファンは斜めに取り付けられていて、風を抵抗と電磁石に送るようにしてあります。本当は裏に穴をあけてファンを設置した方が効率がいいのですが、いろいろの問題でそのままにします。
アルミアングルは、抵抗のヒートシンク的な機能も兼ねています。

発振基板周辺です。

MOSFETが高かったので、折り曲げました。LEDはMOSFETの横に配置してあります。

半固定抵抗基板です。

この基板は鍵盤とつながっていて、アクリル板をあげると、引っ張られて浮きます(笑)
調整はちょっと大変ですが、まあ問題ないかと。

また、全体はこのような配置になっています。

主電源のスイッチは、トグルスイッチです。やはり、半固定抵抗基板は浮いています。

そいうわけで、楽器が完成いたしました。

思ったよりも、いいものができたと思います。当初のタイプに比べたら、レベルが相当違いますね(笑)
楽器の両端には、フックを掛けられるようにしてあり、肩にかけて演奏できます。全体の重さは800g程で、実際に持ってみると、相当軽いです。しかも、七割近くを合板が占めていたりします。

LEDは、このような感じでつきます。
→ON
画像だとあまり明るくないように見えるかもしれないですが、実際はかなり明るいです。というか眩しいです。

そういうわけで、楽器が完成しました。ですが、実際に演奏しないことには、楽器ではないので、何かまともに演奏できるまで頑張ります……

動画

という訳で、製作物を作ったら、ほぼ大体制作している動画です。


まあ、結局、まともな曲が弾けなかったわけですが……
また今回、高速演奏に対応するため、鍵盤に触れる端子を二つに増やしました。

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