電磁装甲



今回は、小型簡易式の電磁装甲を製作します。簡易式とは言え、原理も効果も実物と同じです。もちろん、ただスケールがかなり小さいことは別としてですが。
電気の力で弾を飛ばす(EML)だけでなく、電気の力で守ることもできるということを証明します。
2009/10/27追記:記事の間違っている点をご指摘いただいたので、修正いたしました。



まず、砲弾の種類などを知らないと、この記事はあまり面白くない&意味不明だと思いますのでざざっと解説です。もちろん、飛ばしてくださっても大体大丈夫だと思いますが……

APFSDS

最近主流の戦車砲弾で、APFSDSというのは「Armor Piercing Fin Stabilized Discarding Sabot」の略です。日本語では「装弾筒付翼安定徹甲弾」と言い、タングステン合金や劣化ウランなどでできたダーツのような侵徹体(装甲をぶち破るもの)の周りに装弾筒が付いているものです。
装弾筒というのは、細い侵徹体の周りについているカバーのようなもので、発射時の高圧ガスを受け、侵徹体を加速させます。
そして、砲の外に出た後は、空気抵抗で装弾筒は3〜4つに分かれ、そこら辺に落ちて粉砕します(笑)
すると侵徹体だけが、後部についている小さな翼のおかげで目標に向かって1500m/sくらいで真っすぐ飛んでいきます。
命中すると、小さな面積にすさまじい圧力がかかり、圧力で金属は流体となります。これは、氷に重い物を載せとくと、そこだけ融けるのと同じです。
そして、目標の装甲も同じようなことになり、最終的には貫通します。貫通力は、かなりのものだそうです。
おまけに装甲を水平くらいにしないと跳弾しません。

HEAT

某MGSではおなじみのRPG7とかの、対戦車ロケット弾で主に使用されています。
HEATというのは「High Explosive Anti Tank」の略で、日本語だと「対戦車榴弾」とか「成形炸薬弾」などと言われてます。
仕組みですが、弾の爆薬の内部に、銅でできたラッパの口みたいな内張りがあります。(広い方が目標側)
そして発射されると、目標の装甲の近く(数十センチ前?)で、爆発します。すると、銅の内張りが爆発のすごい圧力で、またまた流体のようになります。これは、APFSDSでも使われている原理です。
で、銅の流体は「メタルジェット」と言われ、マッハ25(約8500m/s)くらいになります。そして装甲に当たり、その圧力で装甲も流体となり……
あとは、ご想像にお任せします。で、貫通力はRPG7で700〜800mm程度だそうです。お分かりのように、爆発力で貫通するわけではありません。
なんか超強力に思えますが、最大の欠点は、メタルジェットの有効範囲です。有効範囲は、かなり限定されているようで、その範囲でないと威力は激減するそうです。
ちなみに、最新の戦車に正面からぶっ放しても、複合装甲などが使用されていて貫通できないので、ゲリラなどは砲塔側面や後部、エンジンなどを狙うそうです。まあ、そう言うところを荷台や鎖分銅でガードする戦車もありますが。

電磁装甲について

電磁装甲とは、2008年現在研究中の追加式装甲です。戦車に取り付けるのではなく、機動力の関係で重装甲を装備できない装甲車などに取り付ける予定だそうです。その名の通り電気を使用した装甲で、主に3タイプに分けられます。また、Wikipediaもご参照下さい=>電磁装甲

コイル方式

これは、ディスクランチャーの原理を応用したもの、というか、九割ディスクランチャーそのままです。
まず、図をご覧ください。

コイル式では、装甲に向かって飛んできた砲弾に対し、ディスクを発射します。すると、ディスクが命中して砲弾に横方向の力がかかり、どこかに飛んで行ったり、壊れたりします。
こうすることで、貫通力を弱めたりするわけです。
これらの効果は、爆発反応装甲と言われるものと同じです。爆発反応装甲は、弾が当たると、ディスクと本装甲の間にある爆発物が爆発して、ディスクを飛ばすのです。ディスクの破片が飛ぶのと、車体に負荷がかかりまくるのが主な欠点です。
欠点としては、垂直方向から来たAPFSDSに対してはほとんど効果がありません。HEAT弾に対しては、メタルジェットの有効範囲から遠ざけるような働きもあるので、効果はあると考えられます。爆発反応装甲とは違い、車体への負荷は小さめです。

放電衝撃方式

ディスクランチャーは、磁力でディスクを発射するのに対し、こちらでは水やゲルなどを使用します。

これは、センサで砲弾などを検知し、ディスクと本装甲の間にあるそれらに放電を加え、爆発させます。すると、ディスクが飛び……
その後は、コイル方式と同じです。効果も、大体同じです
メリットとしては、コイル方式とおなじ容量のコンデンサで、より大きな運動エネルギーをもつ砲弾に対応できるところです。また、爆発物を使用しないので、市街地でも爆発反応装甲より安全に使えるそうです。
また、こっちの方が実験で派手で面白そうなのですが、もろもろの問題がありますので今回は行いません。

通電方式

今度は何も飛ばさず、純粋に電気だけで機能する物です。ですが、某ガンダムのフェイズシフトとは違います。電気を流しても金属の強度は上がりません。

まず、本装甲の上に電圧をかけた二枚の金属板を置きます。そして、砲弾が二枚の金属板を貫通すると、砲弾にすさまじい電流が流れてジュール熱で蒸発、または破壊します。
HEAT弾のメタルジェットは、基本的に金属なので電流を通しますので、同じように働きます。
お気づきの方もいるように、この方式の欠点はかなりの容量のコンデンサが必要であることと、漏電事故などが問題となります。


というような方式に分かれます。
今回実験するのは、一番初めのコイル方式です。センサは、多段式コイルガンでも使用した赤外線センサを使用します。

2008/12/14

年末も差し迫ってきていたので、急いで作り上げます。14日とは言っても、14日の01:30くらいです(笑)

まず、ディスクランチャー二号機から奪ってきたお借りしてきたコイル、トライアック使用のスイッチングユニットです。

今回のコイルは、前回の0.35mmの渦状のものではなく、1.0mmの通常のものです。あまり影響はないと思います……
また、トライアックはいつものBTA41-600です。
そして次に、この実験の要となるセンサとアルミの板です。

センサは、多段式コイルガン戦車の、旧砲塔から摘出しました。
アルミ板は、30×30×3です。重さは約7.3gです。ちなみに、ディスクランチャーのディスクとして打ち上げたところ、一円玉よりも高速です。まあ、厚い分、誘導電流に対する抵抗は少ないので、当然ですが。

ああ、ちなみに、電磁装甲の角度ですが、垂直ではほぼ効果は得られません(APFSDSの場合)ので、ERAで最も効果の高い30°に設置します。そのため、拾いもののフロッピーケースで適度に角度を作り出します。

この裏にコイルを貼り付け、表に、アルミ板を水で貼り付けます。

検出方法

本来は、センサを縦に並べ、電磁装甲の有効範囲に入った弾を検出できるようにするべきなのですが、あいにく予算がなく、そんなことできる状況ではありませんでした。
なので、今回弾を発射するコイルガン戦車の砲身を延長し、その砲口にセンサを取り付けます。

また、センサの反応時間(0.3msくらい)と、ディスクの発射速度などを大まかに計算し、大雑把に弾とディスクが衝突するであろう位置になるように調整しました。ほんと、適当です。

試験開始

とりあえずいろいろ設置し、コイルガン戦車に充電します。また、電磁装甲のエネルギーソースでもある300V@2200μFのコンデンサにも充電します。

コイルガン戦車の上の絵の具の瓶は、マズルジャンプ(刑事ものドラマで俳優が大げさに銃をあげるあれ)で延長が外れるのを防ぐためです。本当にどうでもいいですが、実物の銃は、ドラマみたいにあんなに煙出ません、無煙火薬使ってるので。
で、とりあえず第一射目。実際に試してみると「カキーン」といい音がして弾がコイルガン戦車後方まではじかれました。
この時点で14日3:30。一発目で成功し、思わず一人でガッツポーズしてしまいましたが、すぐにむなしくなってやめました。夜中に何やってんだ、ボクは……
また、このように、アルミ板には、弾の跡が残っていました。

続いて二射目。これもうまくいきましたが、弾が紛失orz さらに、録画に失敗し、記録が残っていません……
さて、そんなこんなで三射目ですが、今度は安全弾に変更しました。しかし、これまたうまくいきました。
威力は無駄に絶大なようです(笑)

そして、動画をupしましたので、どうぞ。はじく瞬間がよくわかると思います。

 

最後に

この電磁装甲は、各国で今だ研究段階です。これだけの効果を持つものをなぜ実用化しようとしないのか? と言うのには、結構わけがあったりします。
まず、センサの問題です。今回のように「飛んできたもんは何でもかんでも跳ね返す」という物であっては困るわけです。つまり、銃弾ごときで反応しては意味がないわけです。それに、1500m/sにもなる戦車砲を捉える技術や、それと判断する技術の問題もあります。
まあ、どこもそんなところです。
そもそも、これをボクが作ったのは、皆さんに理科とか電気に興味を持ってもらいたいからであって、兵器化しようという意図はありません……
まあ「また実用性がないもん作ってんなw」くらいに思ってやってください。

2009 06/21追記

どうやら、スペースデブリ対策として、衝突する寸前に金属板を打ち出すことで、大きなデブリ(2〜10cm)を破砕し、被害を小さくしようという研究がされているようです。(NHKサイエンスゼロにて)
実験では、金属板に角度をつけて固定した状態で、デブリに見立てたアルミ球(14mm,4km/s)を衝突させることで、実験していました。いろいろな理由で火薬を使えない宇宙空間では、意外と電磁装甲が役に立つかもしれません。ただ、戦車砲より速度が速くて小さいので、難しそうですが……

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